猫のきおく

   シーン18

ソファーの横で色んな光が点いたり消えたりしている。少し前にかけるが、その木のようなものにいろんなものを吊り下げていた。今夜はみんな揃って、食事をしていたが、すずりチャンは食べ終わったのか、「ごちそうさま」と言って、直ぐに自分の部屋に戻ろうとした。おそらく、又、机に向かうのだろう。お母さんは、「まだケーキがあるよ」と言って呼び止めたが、すずりチャンは「後で呼んで」って言って去ろうとした時、お父さんが、「すずり あんまり張り詰めるともたないぞ」って、声をかけた。すずりチャンは、一瞬、足を止めて何か言おうとしたが、そのまま二階へ上がっていった。

お母さんがソファーの前の机にケーキを置いて、すずりチャンを呼びに行った。すずりチャンが降りてくると、お母さんが細長い木の根っこみたいなケーキを切り分けて、みんなに手渡ししていった。お父さんとかけるは「メリークリスマス」と言っていたが、すずりチャンは黙って食べて、又、さっさと二階に戻ろうとしたところに、お父さんがソファーで座りなおして、「すずり 模擬テストでなずなチャンに負けて悔しい気持ちは解らないでもないが、人間の実力なんてものは一度や二度で決められないもんだ。実力なんて頑張って努力すれば、後からついてくる。・・・うっ・・・追い詰めるようなことを言ってすまない。君は実力があるんだから、もっと気楽にゆけばー・・・。」って言っていた。それを聞いていたすずりチャンは「ありがとう」、ニコッとして二階にとんとんとんとかけあがって行った。すずりチャンが何だかピリピリしているように思えて後を追えなかった。俺には、何のことだか解らなかったがお父さんがやさしく思えて、ひざの上に乗っかっていった。暖かかった。ケーキを少しちぎって手のひらにのせて差し出してくれた。

 

   シーン17

冷たい風が車庫を吹き抜ける日が増えてきた。少し前に俺の寝床は、二階ベランダの下の風が当たらない場所にお母さんが移動してくれていた。暖かかった日には、近くの畑ん中でバッタとか追い回したりしていたが、最近はずーとうずくまって寝ていることが多い。今は、少し出て電柱のたもとで、そろそろ帰って来るだろうすずりチャンを待っていた。ここは、坂の下まで見通せる場所だ。右手の方から、茶色の毛並みがツヤツヤと光っている大きな犬と連れ立った人が歩いて近づいて来る。身構えていたのだが、その犬はこっちを見ないようにして、無視するように前を通り過ぎて行った。この辺りは犬が多いようだが、大体は小さな犬だ。俺には大きな犬の方が安心できるようだと感じている。

見えた、すずりチャンだ。冷たい風が降りて行っているだろうに、ほっぺを赤くして。首に温かそうなのを巻き付けただけなのに、懸命にスカートを跳ね上げて、向かって上って来る。お母さんなんかはモコッとしたものを着て出てゆくのに、なんであの娘はもっと着ないのだろうか。近くまで来て、俺の姿に気づいたのか、「プチッ」って手を振った。少しよろけながら。いろんな想いもありながら、ニャーと精一杯応えた。