猫はペットじゃあなく、人間の相棒 です。捨て猫は無くしましょう。

 

猫のきおく

シーン 結末

いつもは細い赤のリボンだったが、今日は細い紺のリボンで胸元も紺色で上からスカートまで紺色だった。すずりチャンが「どう似合う」って言って俺の前に出てきた。お母さんも今日は違った。昨日の夜、お母さんも行く行かないで言い合っていたが・・・。

 

すずりチヤンが「行ってくるね」と言って二人で元気に出掛けて行った。すずりチヤンは張り切っていた。

 

桜の花びらが風にのって舞い散る道を、俺はあの公園をめざして、坂道を下りて行った。何故か、すずりチヤンを迎えに行かねばと感じていた。黒カラが電柱の上でガァーガァーとうるさく鳴いていた。公園に着くと誰も居なかったが、桜の花びらがいっぱい舞って落ちてきていた。向こうの大きな道路側の植え込みの下ですずりちゃんが帰って来るのを待っていた。寝ないで首を伸ばしてその方向を見つめていた。長い時が過ぎて行った。

 

居たっ。すずりチャン。母さんと並んでいた。俺は道路の際まで出て行った。すずりチャンも俺を見つけたみたいで、「おおーいプチぃー」っと大きな声で叫んできた。両手を振りながら思わず道路を渡ろうとしていた。大きな車が走って来るのをまるで見ていない。気づいていない様子だ。おいっ待てよっ・・・。危ない―。俺はとっさに飛んだ。その瞬間、今だぞ、猫の神様が後ろから押してくれた。黒カラも支えてくれたかのように、ふわーっと車の前に向かって飛び出した。ゆっくりと車との間が縮まってくるのを感じた。

 

そして、衝撃とともに頭ん中が真っ白になっていくのも感じた。すずりチヤンが俺を抱きしめて、「プチップチッ」って何度も大声で叫んでいるけど、だんだんその声が遠くなってゆくように思えた。だけど、良かった。すずりチャンは無事だったんだ。ごめんね、俺がここまで迎えに来なければ良かったんだよね。もうその声も聞こえなくなってきた。今までのきおくが頭の中でかすめてゆく。これまで、ありがとう、すずりチヤン。君と出会えて幸せだったよ、すずりチャンも幸せになってください。又、どこかで・・・。

 

   エピローグ

小雨の降る日。公園のブランコの上で一羽のカラスがガアガァーとうるさく鳴いていた。何かを感じたのか、通りがかった紺のセーラー服姿の女子高生が公園の植え込みをのぞき込んで、「プチッ」て声をかけた。足の先だけが黒い白の子猫は慣れ親しんだように「ミャー」と返した。  その娘は子猫を抱きしめて涙ぐんでいた。そして、タオルで優しく包むようにして、自転車の前のかごに載せて、後ろに結んだ髪の毛を左右に振りながら、坂道を上って行った。

 

  猫のきおく

    シーン23

向かいの家の桜がこぼれんばかりに咲きだした。隣の家のもブロック塀の上を塞いでいるようだ。あの時戦ったクロスケはあれから見ないでいる。今朝からすずりチャンとお母さんが何やらバタバタとしていた。

ソファーがある部屋の隣、俺は入ったことのないところだ。頭の左側から花の飾りが垂れている。薄いピンクに大きな花がいくつか描かれている着物を着て、可愛らしくすずりチャンが立っている。お母さんは追って細かな花の着物を着ている最中だ。俺に向かって、すずりチヤンが両手を広げて、「どう」って言ってクルリとまわって見せた。唇も少しいつもより紅い、ずっと大人になったすずりチャンに見えた。多分、眩しくて俺の瞳は縦に一本になっていたのではないだろうか。「プチを抱くんじゃぁないわよっ、毛がつくから」って後ろから声が掛かってきた。お父さんも出てきて、すずりチャンに見とれて、しばらく声が出ない様子で口を半分開けたままだった。かけるもこの日は普段とは違う恰好をしていた。
四人が揃って、お父さんの運転で出て行った。俺は閉め出されたが、乾いた魚を皿に入れ、「独りで留守番しててね」って言って、バイバイされた。神社へお礼参りに行ったみたい。行ってらっしゃい、本当に良かったねと見送った。

猫のきおく

  シーン22

桜があちこちの家からちらほらと咲き始めていた。最近は家にいたすずりチャンが、今朝はあの細いリボンの服でソファーに座っていた。何も話さない、ミルクティーを黙って飲んでいた。お父さんとお母さんは朝出掛けて行った。かけるは庭でボール遊びをしている。突然「良し行くぞー」と言って俺をなでながら、「プチ 君に神通力があったら力貸してほしい」とか・・・。猫の力を使うのは今では無いぞと俺は感じた。。すずりチャンは出掛けて行った。

どれぐらい時間が経っただろうか、その時、おれは庭寄りの窓際で日差しを浴びながら寝ていた。バタバタっとすずりチャンが帰ってきて、いきなり俺を顔まで抱き上げて、「受かった受かったよ」って言って、ほおずりし始めた。俺はそのほっぺをペロペロした。いつもの柔らかな匂いが心地よかった。かけるも二階から降りてきて、「お姉ちゃんおめでとう」と駆け寄ってきた。

夕方近く、お母さんが帰ってきて、すずりチャンに駆け寄って、「お店の女の子も喜んでくれて、ケーキを買ってきてくれて早く帰ってお祝いしてくださいって言ってくれたから、かたまりのお肉も買ってきたわよ。急いでローストビーフ仕込むネ。お父さんも早く帰って来るって、みんなでお祝いしましょ。すずりがお店に寄った時、受かったって聞いたらお母さんうれしくて涙が出てきてしまったわ。なずなチャンも一緒で本当によかったわネ。」その様子を見ていた俺は猫でありながらも幸せな気持ちになっていた。おカアチャン俺の分も肉あるのかなぁ・・・。

猫のきおく

  シーン21

少し暖かくなってきた日。朝からいつもと雰囲気が変わっていた。 「お弁当は卵サンドとジャムサンドにしたわ、バナナとあとあなたの好きな濃いミルクティもボトルに入れといたよ 大丈夫?用意出来たら出るわよ」 とお母さんが、すずりチャンに向かって言っていた。すずりチャンも「大丈夫」と言って二階に上って行って、しばらくして下りてきたかと思うと、俺を両手で顔まで抱き上げて、「頑張ってくるよプチ応援していてね」って言った。何か声が弱弱しい、だから勇気づける意味でニャーニヤーと二回鳴いた気がしたが、二度目は声が出なかったようだ。それでもすずりチャンはニコッと返してきたように思えた。何だか俺には解らなかったが・・・。

お母さんの運転で二人は出て行った。俺は車庫からそれを見送っていた。とにかく頑張れって・・・。電柱に止まっている黒カラをひさびさに見た。奴も見守っていたのだろうか・・・。

猫のきおく

   シーン19

その日、外は寒い。みんなは天ぷらにそばを食べている。食事が終わって、お父さんがすずりチャンをソファーのある部屋に話があると誘った。すずりチャンは俺を膝に抱いて、お父さんの向かいに座った。お母さんも横に座った。かけるは何かを察したのか来ない。

お父さんは、「今年ももうすぐ終わりだなぁー。すずりは〇ん高しか受けないそうだが、それで、いいのか。人生には予期せぬことが起こる。信用していないわけではないが、まんがいちってことがあるだろうー。〇〇学園も受けておいたらどうかな」すずりチャンは一瞬、俺を抱いている手にギュッと力入れた。少し間を置いて、「私は絶対に〇ん高に行きます」と はっきり答えた。「なずなチャンとも二人揃って行くって約束したし・・・。絶対頑張って行く」真っ直ぐ、お父さんとお母さんの顔を見ていた。お父さんは、「そうかー君を信じるよ」と・・・。すずりチャンは「じゃー」と言って、俺を抱いたまま階段を上った。

そのまま二階のベランダに出て、星空を見ていた。寒いだろう・・・。暗い空に一筋の光が上の方に昇っていったかと思うと上の方で大きく広がって消えて行った。そして大きな音がしたが、突然、すずりチャンは俺を抱いたまま右手を上に真っ直ぐに突き上げて、「ゆくぞ、〇ん高ぉぉー」と叫んだ。俺はびっくりして腕から飛び降りて、すずりチヤンの方を見ていた。

  シーン20

朝がきた。すずりチャンは夜どおし起きて机に向かっていたようだ。ときおり、窓を開けて大きく両腕を伸ばして思いっきり息を吸い込んで・・・ベッドで寝ている俺の頭をなでて、又、机に向かっていた。

その日の朝の食事はみんながソファーに揃っていた。すずりチャンは顔を洗って俺と最後に行ったんだけど、お母さんは着物姿だった。お父さんが「明けましておめでとう」と言って、皆が口々に「おめでとう」と言っていた。飲み始めたお父さんは、「すずりとかけるは上の学校に行くし、お母さんはお店を任せられるし、お父さんの事務所は移転するし、今年はみんなが頑張る年だなー」又、コップについで飲んでいた。机の上には色んなものがのっていて、すずりチャンとかけるが時々俺にも分けてくれた。

ある程度食べ終わった頃、お母さんが「みんなで初詣に行ってお願いしょ」って言い出した。お父さんも「そうだなぁー」って言ったけどすずりチャンは黙っていた。お母さんは追いかけるように、「ねぇーすずり、着物をきてほしいのよー・・・」すずりチャンは 「ごめんなさい、自分で頑張って合格するから、着物は受かったらその後お礼に行く時に着てゆくから・・・」結局、三人で出掛けたみたいだった。残ったすずりチャンはますます気が高まっているみたいだった。で、「プチ シャワーするよ」って連れていかれた。とんだとばっちりだったが、お湯をかけながら、「共同体だょ」ってすずりチャンがつぶやいた。でも、出た後はたぶん寒いだろう・・・

猫のきおく

   シーン19

その日、外は寒い。みんなは天ぷらにそばを食べている。食事が終わって、お父さんがすずりチャンをソファーのある部屋に話があると誘った。すずりチャンは俺を膝に抱いて、お父さんの向かいに座った。お母さんも横に座った。かけるは何かを察したのか来ない。

お父さんは、「今年ももうすぐ終わりだなぁー。すずりは〇ん高しか受けないそうだが、それで、いいのか。人生には予期せぬことが起こる。信用していないわけではないが、まんがいちってことがあるだろうー。〇〇学園も受けておいたらどうかな」すずりチャンは一瞬、俺を抱いている手にギュッと力入れた。少し間を置いて、「私は絶対に〇ん高に行きます」と はっきり答えた。「なずなチャンとも二人揃って行くって約束したし・・・。絶対頑張って行く」真っ直ぐ、お父さんとお母さんの顔を見ていた。お父さんは、「そうかー君を信じるよ」と・・・。すずりチャンは「じゃー」と言って、俺を抱いたまま階段を上った。

そのまま二階のベランダに出て、星空を見ていた。寒いだろう・・・。暗い空に一筋の光が上の方に昇っていったかと思うと上の方で大きく広がって消えて行った。そして大きな音がしたが、突然、すずりチャンは俺を抱いたまま右手を上に真っ直ぐに突き上げて、「ゆくぞ、〇ん高ぉぉー」と叫んだ。俺はびっくりして腕から飛び降りて、すずりチヤンの方を見ていた。

  シーン20

朝がきた。すずりチャンは夜どおし起きて机に向かっていたようだ。ときおり、窓を開けて大きく両腕を伸ばして思いっきり息を吸い込んで・・・ベッドで寝ている俺の頭をなでて、又、机に向かっていた。

その日の朝の食事はみんながソファーに揃っていた。すずりチャンは顔を洗って俺と最後に行ったんだけど、お母さんは着物姿だった。お父さんが「明けましておめでとう」と言って、皆が口々に「おめでとう」と言っていた。飲み始めたお父さんは、「すずりとかけるは上の学校に行くし、お母さんはお店を任せられるし、お父さんの事務所は移転するし、今年はみんなが頑張る年だなー」又、コップについで飲んでいた。机の上には色んなものがのっていて、すずりチャンとかけるが時々俺にも分けてくれた。

ある程度食べ終わった頃、お母さんが「みんなで初詣に行ってお願いしょ」って言い出した。お父さんも「そうだなぁー」って言ったけどすずりチャンは黙っていた。お母さんは追いかけるように、「ねぇーすずり、着物をきてほしいのよー・・・」すずりチャンは 「ごめんなさい、自分で頑張って合格するから、着物は受かったらその後お礼に行く時に着てゆくから・・・」結局、三人で出掛けたみたいだった。残ったすずりチャンはますます気が高まっているみたいだった。で、「プチ シャワーするよ」って連れていかれた。とんだとばっちりだったが、お湯をかけながら、「共同体だょ」ってすずりチャンがつぶやいた。でも、出た後はたぶん寒いだろう・・・

猫のきおく

   シーン18

ソファーの横で色んな光が点いたり消えたりしている。少し前にかけるが、その木のようなものにいろんなものを吊り下げていた。今夜はみんな揃って、食事をしていたが、すずりチャンは食べ終わったのか、「ごちそうさま」と言って、直ぐに自分の部屋に戻ろうとした。おそらく、又、机に向かうのだろう。お母さんは、「まだケーキがあるよ」と言って呼び止めたが、すずりチャンは「後で呼んで」って言って去ろうとした時、お父さんが、「すずり あんまり張り詰めるともたないぞ」って、声をかけた。すずりチャンは、一瞬、足を止めて何か言おうとしたが、そのまま二階へ上がっていった。

お母さんがソファーの前の机にケーキを置いて、すずりチャンを呼びに行った。すずりチャンが降りてくると、お母さんが細長い木の根っこみたいなケーキを切り分けて、みんなに手渡ししていった。お父さんとかけるは「メリークリスマス」と言っていたが、すずりチャンは黙って食べて、又、さっさと二階に戻ろうとしたところに、お父さんがソファーで座りなおして、「すずり 模擬テストでなずなチャンに負けて悔しい気持ちは解らないでもないが、人間の実力なんてものは一度や二度で決められないもんだ。実力なんて頑張って努力すれば、後からついてくる。・・・うっ・・・追い詰めるようなことを言ってすまない。君は実力があるんだから、もっと気楽にゆけばー・・・。」って言っていた。それを聞いていたすずりチャンは「ありがとう」、ニコッとして二階にとんとんとんとかけあがって行った。すずりチャンが何だかピリピリしているように思えて後を追えなかった。俺には、何のことだか解らなかったがお父さんがやさしく思えて、ひざの上に乗っかっていった。暖かかった。ケーキを少しちぎって手のひらにのせて差し出してくれた。

 

   シーン17

冷たい風が車庫を吹き抜ける日が増えてきた。少し前に俺の寝床は、二階ベランダの下の風が当たらない場所にお母さんが移動してくれていた。暖かかった日には、近くの畑ん中でバッタとか追い回したりしていたが、最近はずーとうずくまって寝ていることが多い。今は、少し出て電柱のたもとで、そろそろ帰って来るだろうすずりチャンを待っていた。ここは、坂の下まで見通せる場所だ。右手の方から、茶色の毛並みがツヤツヤと光っている大きな犬と連れ立った人が歩いて近づいて来る。身構えていたのだが、その犬はこっちを見ないようにして、無視するように前を通り過ぎて行った。この辺りは犬が多いようだが、大体は小さな犬だ。俺には大きな犬の方が安心できるようだと感じている。

見えた、すずりチャンだ。冷たい風が降りて行っているだろうに、ほっぺを赤くして。首に温かそうなのを巻き付けただけなのに、懸命にスカートを跳ね上げて、向かって上って来る。お母さんなんかはモコッとしたものを着て出てゆくのに、なんであの娘はもっと着ないのだろうか。近くまで来て、俺の姿に気づいたのか、「プチッ」って手を振った。少しよろけながら。いろんな想いもありながら、ニャーと精一杯応えた。