猫のきおく

プロローグ

 

今、ブロック塀の上をゆっくり歩いている。暖かい日差しが心地よい。一年程前とは大違いだ。記憶をたどってゆくと・・・

 

寒い雨が降っている日だった。公園の植え込みの下でミヤーミヤー鳴いていると、女の子が近づいてきて、拾い上げてくれた。そのまま自転車の前のカゴに入れられ、今の我が家に連れて帰って、自分も濡れているのに、先にタオルで抱きかかえるように拭いてくれた。少し暖かなミルクを皿に入れてくれ、飲み干すと、少しばかりのご飯を箱みたいの(多分お弁当の残りだったかもしれない)から移して少しばかりのかつお節をかけてくれた。おいしくて、ホゴホゴうなりながら喰らいついた。

そのままストーブの前で女の子の膝の上に乗り、うとうとした。誰かもう一人部屋に入ってきたのに気が付いた。すると、女の子と大きな声で言い合っている。女の子は すずり という名前らしい もう一人はお母さんと呼ばれていた。女の子は俺を突然抱え上げ、別のところに連れて行った。いきなり、シャワーを身体にかけ俺を洗い始めたんだ。濡れるのは嫌だ嫌だと思いつつじっとしていた。仕方ないと思ったんだ。また、暖かいタオルに包まれて拭いてもらうと気持ち良い。抱えられ、あの部屋に戻った。女の子からも石鹸の慣れない匂いがする。

ごはんの時間らしい。もう一人増えていた。男の子。寄ってきたから逃げた。女の子がダメーって言っているのが聞こえる。三人が机に座って、食べだした。けどお母さんが俺にもご飯に小魚を載せて俺の口元に差し出してくれた。なんという幸せな時間だろう・・・。

女の子が俺に向かって毛の色が白黒でブチだからブチかななんて言い出した。顔の左側は黒いがブチじゃぁないだろうと思っていたら、「やっぱりかわいくないからプチにしょう」と言っていた。 プチ プチって呼ぶんだよ。 何だい すずりチャン